学会概要


理事長に就任して


日本社会精神医学会 理事長 水野雅文

 このたび井上新平先生の後任として、当学会の理事長を務めさせて頂くこととなりました。若輩でございますが、全力で重責を果たして参る所存です。会員の皆さまのご指導ご鞭撻を心よりお願い申し上げます。

 当学会には1996年に入会させて頂きました。以来20年にわたり、臨床精神医学の多様な側面を様々な角度から勉強する機会を頂いて参りました。いわば精神科医としての基礎を作り、発表の機会を与えてくださった学会です。これまで以上に、当学会の発展とここに集う多くの、特に多職種にわたる若い会員のみなさんが社会精神医学的素養を得てさらに成長される場となるよう、微力を尽くしたいと考えます。

 社会精神医学の担う範囲は実に幅広く奥深いものです。もとより精神医学・精神医療は人の社会的な営みを対象とする科学であり、本来的に極めて社会的な視点を求められる領域です。しかし社会は常に変容し、実相ある社会から仮想空間へと広がり、まもなく宇宙へも広がっていくことでしょう。ネットの出現と普及により、人類のコミュニケーション手段は大きく変わりました。人が出会う導線も変わりました。さらに、未曾有の少子超高齢社会を迎えわが国では人口構成も変わり外国人が増え、非正規雇用や貧困により格差が拡大する中で、不安や緊張の持ちようも自ずから変化していることと思います。

 そうした中で、いち早く社会精神医学的な新たな問題やニーズの存在に気づき提起することこそ学会の使命です。学術大会と学会誌を駆使して討論の場を広げていきたいと思います。学会内での議論や研究の成果は専門家間の共有だけでは意義が乏しく、よりわかりやすい形で行政や社会に対して発信されるべきです。年に一度の学術集会と4回の会員向け学会誌の発行だけでは十分とはいえません。日頃から社会精神医学的な話題提供とリテラシーの拡大に努めて参りたいと思います。

 新理事会では、当学会により多職種の参加を求めるための工夫についての話し合が持たれております。より広い職種の参加を得てこそ、多様な臨床精神医学の姿を語れる場になれるのであり、それには様々な場面で多くの方に学会活動に触れて頂き、社会精神医学を知って頂く必要があると思います。井上前理事長が発案されこれまで順調に回を重ねている「看護師のための社会精神医学セミナー」は、看護師以外の職種の方々への参加を促しやすいよう「看護師とコメディカルスタッフのための社会精神医学セミナー」へと発展しました。地域ケアの時代を迎える中で、特に薬剤師の役割への期待は大きく、我々の仲間に是非とも加わって頂きたいと願っています。そこで新編集委員には東邦大学薬学部の吉尾隆先生にご参加頂き、学会誌編集のみならず、今後の学術活動にも現場の薬剤師の方々が積極的に参加できる企画をご相談しているところです。

 昨年の岡山大会では認知症をめぐるテーマも増え、多数の参加者がありました。超高齢社会において認知症や高齢者のケアは避けて通れない課題です。今春刊行された25巻1号の特集では「認知症の最新動向と社会精神医学の貢献」をめぐる座談会(司会上村直人先生)が掲載され、社会精神医学への期待が語られました。一方、児童思春期の問題も重要です。児童精神科医の不足は以前から語られていますが、思春期を専門とする精神科医は一段と少ないように思います。摂食障害や統合失調症など思春期に始まる疾患の予防や早期発見・早期治療を実現するためには、児童と成人の間を見守る専門家の存在と社会のシステムが必要です。若年者の自殺率は依然上昇を続けており、総数の減少により報道が減っていますが、社会の関心が薄れるままにはできません。

 これまで2008年以来、学会誌の編集委員長を務めさせて頂きました。この間、年3号の刊行が季刊となりました。本誌を通して,年2回の社会精神医学的テーマの特集、大会での教育講演やシンポジウムについての発表者自身による原稿、さらに臨床実践を含めた投稿論文等により、わが国における社会精神医学の今を知ることができます。会員には年会費10,000円で学会誌4号と大会抄録集が送られてきます。次は隔月刊を目指して、ここにあらためて会員の皆さまのご協力をお願い申し上げる次第です。
どうぞよろしくお願いいたします。

水野雅文(東邦大学医学部精神神経医学講座教授)

略歴
1986年慶應義塾大学医学部卒業、1992年同大学院医学研究科博士課程修了、1993-95年イタリア政府給費留学生としてパドヴァ大学心理学科留学、同visiting professor。帰国後、慶應義塾大学医学部精神神経科学教室講師、助教授を経て2006年東邦大学医学部精神神経医学講座教授就任。本学会活動としては、2001 年4月監事、2004年第13巻から本誌編集委員、2006年4月常任理事、2008年第17巻から編集委員長。2010年から副理事長。